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名声を取るか住み心地を取るか……それが問題だ。

 前回の「嗚呼!デザイナーズマンション」に続く、日本での物件探しの続編である。
 つい2週間前「えっ、来月帰国しなければっ!」と、引っ越し業者選びにまでコトが及び、資金面調達に頭のイタイ思いまでした物件に、遂ぞ、出会ってしまった。
 今年はどうやら新築物件ラッシュらしく、賃貸物件もめじろ押し状態である。
 上を見ればキリがナイことを知りつつも、ついつい月額家賃の上限を上げて探してしまう。日本の友人の話だと、大抵、独り暮らしを始めるOLが借りる月額レンジは10万円以下のワンルーム(1R、1K)で、最多は平均月7、8万円といった相場らしい。
 なるほど、日々仕事に疲れて「帰って寝るだけ」に等しい我が家に、さほど贅沢する必要もないだろう。やがて結婚(同棲)するまでの仮住まいである。よって10万円以下の物件数はめちゃめちゃ多く、そのバリエーションたるや、アメリカのエージェントは爪の垢でも煎じて飲むべきである。
 狭い空間を、如何に上手く工夫して設計するかに於いて、日本のアーキテクチャーの右に出る人種はいないだろう。
 その最たる人、そう、安藤忠雄。この人である。名声を取るか住み心地を取るか……それが問題だ。_f0077769_1501378.jpg
 大阪市港区出身の彼の作品の数々は、文化教育施設や博物館、美術館、またはギャラリーや商業施設などで、世界的にみても「一般住宅」を手掛けた数は、たかが知れている。
 個人的な繋がりから、彼が受注した住宅(住吉の長屋)、または彼が建て直しを所望した住居(六甲の集合住宅)以外、ほとんど見られない。ましてや公共プロジェクトの一貫でもない「単なる賃貸物件」などは皆無である。
 しかし、その1つが、今年2月、大阪キタにある安藤忠雄建築研究所のすぐ傍に建てられ「入居者募集中」という。
 世界の安藤が設計したマンションに入居できる——「これは、ひょっとしてアリかも知れない」。正直焦った。
 現在残っている空室は2戸(Aタイプの1R=42.97㎡)。家賃+共益費込みで月々12、13万円程度。壁はコンクリート打ちっぱなしで床はフローリング。立地も梅田ロフト近くで都会のド真ん中、住居兼事務所(SOHO=スモール・オフィス・ホーム・オフィス)としての使用も可能で条件は決して悪くない。
 帰国して、知り合いに伝える際の「付加価値」としては最高のインフォメーションにも成り得ると、スケベ心もちょいと顔を出す。
 兎に角、物件の詳細が知りたくて、このビルを取り扱っているエージェント数社に早速、問い合わせのeメールを出してみた。
 流石だ。思った以上に日本の不動産会社の対応は早い。
 即、各社から快い返信が届いて、添付されて来た「間取り」(右上)や画像(左下)を食い入るように見て、敷金や礼金(約60万円)などを弾き出して算段、思案する日々が始まった。
 寝ても覚めてもこの間取りとの戦いである。ただ1つ悩んでいることは「めっちゃ狭い」ことだ。14.7帖のたった1つの空間に「住まいと作業場」を両立させ、どれだけ我慢できるかにかかっている。
 阪急梅田駅から徒歩6分、RC構造7階建て。総戸数は18件、1階に店舗が1件と専用駐車場2件分、これが同ビルの全てだ。名声を取るか住み心地を取るか……それが問題だ。_f0077769_1505893.jpg
 しかし、梅田から徒歩6分はデタラメである。通称「新御堂」の高架を越えてまだ東へかなり入る。
 毎日放送本社ビルや梅田ロフトからも5分はかかると予測できる。もしかすると地下鉄御堂筋線の中津駅の方が全然近いかも知れない。私の足では、どちらの最寄り駅へも10〜15分は有にかかるだろう。まあ、若者たちがたむろする今どきの商業店舗が密集する街並みをテクテク歩く訳だから、そんなに遠くは感じないだろうとは思う。
 同ビルの外観やエントランス、各戸の玄関廻り(デカくて重厚なドア)は、部屋の内装&設計に比べてかなりイイ感じに仕上がっている。しかし、ハッキリ言って、ココで暮らすのは快適ではない。どころか、この家賃で他を探すと、デザイナーズマンションが建ち並ぶ人気のミナミの堀江辺りでさえも、もっと快適で広いイイ新築デザイナーズ物件が続々見つかる。
 見た目、名声を取るべきか、住み心地を取るべきか……、それが問題である。
2008年8月15日号(vol.172)掲載
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by SGraphics | 2008-08-12 01:51 | エッセイ
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